ビジネスモデルキャンバスによるサービスデザイン

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消費者ニーズが目まぐるしく変化し続ける中で、サービスデザイン/新規事業企画に携わる方には、ビジネスアイデアを素早く組み立て、検証・改善を繰り返していく手法と考え方をマスターする必要があります。
今回は、ビジネスアイデアを素早く可視化し、実行に移す際に有用な「ビジネスモデルキャンバス」について解説します。

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■ビジネスモデルキャンバスとは?

スイスの学者Alexander Osterwalder氏によって開発され、現在はスイスのコンサルティング会社Strategyzer社によって世界中に展開されているビジネスモデルを可視化するためのフレームワークです。
リーン・スタートアップやデザイン思考といったサービスデザイン/新規事業開発手法とも関連性があり、ビジネスモデルの妥当性を検証する実用的なツールとして昨今注目されています。

■ビジネスモデルキャンバスの使い方

ビジネスモデルキャンバスは、以下9項目を埋めることで、ビジネスモデルを可視化したり、改善点を見出しやすくすることができます。

1.Key Partners(主要パートナー):事業を運営する上で連携するサプライヤーや代理店など。
2.Key Activities(主要な活動):事業における主要な活動。
3.Key Resources(主要な資源):事業を行う上で強みとなる資源。(設備、ネットワーク、知的財産など)
4.Value Propositions(提供価値):事業の存在価値となる、顧客に提供する価値。
5.Customer Relationships(顧客との関係):顧客との接点、関係維持、展開の手段。
6.Channels(チャネル/販路):顧客に価値を届けるためのルート、告知手段、取組内容。
7.Customer Segments(顧客セグメント):対象となる顧客集団の属性。
8.Cost Structure(コスト構造):事業を運営する上で要する、広告費や人件費、アウトソース費用等の経費。
9.Revenue Streams(収益の流れ):課金の流れ、支払い方法、売上額、単回収入or継続収入など、収益構造を構成する要素。
身近なサービスの例として、Amazonとカーシェアのタイムズ・カー・プラスのビジネスモデルをビジネスモデルキャンバスで整理するとおおよそ以下のようになります。

Amazonのビジネスモデル

タイムズ・カー・プラスのビジネスモデル

■ビジネスモデルキャンバスを書く手順

記入の順番に関しては特に明確に定められていませんが、UXデザインの視点で考えるならば「誰のどのような課題を解決するのか?」が大前提です。
まずは顧客にどのような価値をどのような手段で届けるのかを定義し、その価値を届けるために活用する自社の資源と事業の活動内容、事業運営のために連携が必要な主要なパートナーを下記の順で書き出していくことで、ビジネスの形が見えてきます。

7.Customer Segments(顧客セグメント)
4.Value Propositions(提供価値)
3.Key Resources(主要な資源)
2.Key Activities(主要な活動)
1.Key Partners(主要パートナー)


売りたい技術や商品、目標売上前提といった売り手主導でデザインすることも可能ですが、「自社のサービスを買う顧客を探す」「売上を最大化する事業を作る」という売り手主導のアプローチでデザインした場合、売り手に都合の良いだけの架空のユーザーを想定してしまったり、存在しないニーズに対する間違ったビジネスモデルを走らせてしまう危険性が伴います。

まずは「誰のどのような課題を解決するのか?」をしっかりと定義したうえで、要すれば足りない技術/リソースを補うことも想定したビジネスモデルを組み立てて行くことが成功への近道になります。

正しい答えを見つけることではなく、
正しい質問を探すことこそが、重要かつ至難の問題だ。
誤った質問に対する正しい答えほど、無駄なものはない。
-ピーター・ドラッガー「現代の経営」より-

※別記事
ユーザー視点のサービスデザイン〜デザイン思考の真髄〜
デザイン思考がもたらす効果

もぜひ合わせてご参照ください。

■既存のビジネスを分析してみよう

ここでひとつ、世界的なファストフードチェーンのビジネスモデルをビジネスモデルキャンバスで分析してみます。私たちにも馴染みの深いKFC(ケンタッキー・フライドチキン)を例に取り上げてみましょう。

KFCは、世界的なフライドチキンレストランのフランチャイズビジネスであり、創業者カーネル・サンダースは、世界に先駆けたフランチャイズビジネスの生みの親とも言われています。
サンダースは数々の職を転々とし、数々のビジネスで挑戦・失敗を繰り返しながらも不屈の精神で成功したことで知られていますが、自身が経営するレストランを併設したガソリンスタンドが沿線道路の廃止によって閉鎖に追い込まれたり、1930年に開業した自身が経営/シェフを務めるレストラン「サンダース・カフェ」を火事で消失するという度重なる不運に見舞われたことが起点になったと言われています。
多くの資産を失ったものの、顧客から評判であった素材と調理法にこだわったフライドチキンのレシピ(知的財産)を失うことはなく、サンダースは顧客においしいフライドチキンを提供する方法そのもの(秘伝のレシピと経営ノウハウ)を提供価値として、全米のレストランオーナーに提供するビジネスに転じました。

さて、ここでKFCのビジネスモデルを見てみましょう。

ここで注目したいのは、開業当初のKFCのビジネスモデルはBtoBであり、顧客セグメントはエンドユーザーではなく、「店舗オーナー」であったことです。
前述の通り、過去のレストラン経営の経験から、売れるフライドチキンのレシピはすでに顧客のニーズを満たす経営資源として存在していたため、このレシピと経営ノウハウ自体を商品として、「資金がないがレストランを経営したい店舗オーナー」に提供することを考案しました。

収益構造はいたってシンプル。加盟店に対し、フライドチキン1個が売れたら¢5のロイヤリティを支払う契約とし、資金難の加盟店オーナーのために加盟料(初期費用)は課さない方針を貫きました。
一方で、知的財産が商品であるKFCのビジネスでは、不動産、在庫、機器のメンテナンスなどの費用が発生することはなく、支出の項目も少なく済んでいます。主要な活動はいずれも知的財産に基づくものであるために、活動費も少なく、シンプルです。

開業当初は宣伝広告費もかけていません。カーネルは、全ての加盟店に対し、著作権付きのロゴが描かれた看板を掲げることを契約の条件とし、その認知度を広げていくことに成功しています。また、過去に道路・鉄道関係の仕事に従事していたこともあり、全米の道路網が飛躍的に広がることを予測しており、この予測が当たったことで、さらに認知度が拡大したことが功を奏したとも言われています。

カーネル・サンダースは、不屈の精神と行動力で成功したことで知られており、開業当初にビジネスモデルキャンバスのような分析をしたかどうかは定かではありませんが、このように分析をしてみるとしっかりとしたロジックが成り立っていることがわかります。

■ビジネスモデルキャンバスを使うメリット

SWOT分析や3C分析といったサービスデザイン/新規事業企画に応用できるフレームワークが多数ありますが、これらと比較しでビジネスモデルキャンバスは、
①ビジネス全体の主要なポイントを細かく可視化することができる
②ニーズとシーズのバランスを保ったビジネスモデルをデザインできる
③ビジネスマンに必要なトレーニングのツールになる
④社内/関係者間でのチームワークに有用である

といった優位性があります。

①ビジネス全体の主要なポイントを細かく可視化することができる
SWOT分析や3C分析といった主流のフレームワークでは、事業開発初期における競争優位性の可視化の点では有用であるものの、ビジネスモデルの詳細を設計するには十分ではありません。
ビジネスモデルキャンバスでは、競争優位性のみにフォーカスされていない、ビジネス全体の主要なポイントを細かく可視化することができる点で優れた効果を発揮します。

②ニーズとシーズのバランスを保ったビジネスモデルをデザインできる
ビジネスモデルを検討する際に、他のフレームワークでは、本来深く追求すべき「誰のどのような課題を解決するのか?」を掘り下げる項目が十分ではなく、多くの場合、自社の都合の良い設計に傾いてしまう傾向にあります。
ビジネスモデルキャンバスでは、「誰のどのような課題を解決するのか?」を議論するために必要な情報を書き込む項目があるため、常に顧客の視点に立ち返り、企業視点に寄り過ぎないバランスの取れたビジネスモデルを組み立てることができる点でも有用です。
また、ビジネスモデルキャンバスでは、「事業と顧客がどのように関わるか」についてもフレームワーク内でデザインできるため、昨今のサービスデザインにおいて強く提唱されている”顧客との共創”を、フレームワーク内で描くことができます。
これにより、本来主役である顧客を無視することなく、より成功確率の高いビジネスモデルを描くことが可能になります。

③ビジネスマンに必要なトレーニングのツールになる
スポーツ選手にとって日々のトレーニングが最も重要な活動であることと同様に、ビジネスに関わる人にも、本来日々のトレーニングが必要なはずです。
普段狭い業務領域で仕事をしている人にとって、アイデアを創出したりビジネスモデルを考案することは容易ではないかもしれません。しかし、創造性を発揮し、ビジネスモデルをデザインするというスキルは、今後ビジネスに関わる全ての人に求められるといっても過言ではありません。
ビジネスモデルキャンバスには正解はなく、自由な裁量で思考を活性化させ、アイデア発想を膨らませるためのトレーニングとして役立ちます。 日頃からアイデア発想を習慣化し、身の回りにあるあらゆるビジネスの構造を自分なりに分析してみましょう。

④社内/関係者間でのチームワークに有用である
新たな事業を創出するうえで、アイデアが承認され、実行に移すまでには組織内に多くのハードルが存在します。
発案者・協力者・承認者といった複数のステークホルダを巻き込んでサービスデザイン/新規事業企画を進めていく上で、立場の違いや認識の齟齬によってプロジェクトメンバー同士の関係性が悪化したり、上層部から実行の承認が得られないなどの悩みを抱え、新規事業企画が白紙になってしまうといったケースが後を絶ちません。
一方、ビジネスモデルキャンバスを起点とし、常にそこに立ち返るルールを設けることで、関係者間の認識のズレをなくし、ベクトルをあわせてプロジェクトを進めていくためのツールとしても効果をもたらします。
また、ビジネスモデルの詳細を可視化することで改善点が見えてきたり、新たなアイデアが出てくることも多く、議論を盛り上げ、チームを活性化する上でも大いに役立てることができます。

■誰が、いつ、どの段階で使用すべきか?

ビジネスモデルキャンバスは、サービスデザイン/新規事業企画に携わる方が、気軽に活用できる便利なツールです。
対象顧客とニーズがある程度定義され、具体的な事業プランに落とし込む段階で特に有効ですが、アイデアを思いついた段階でまず書いてみると、アイデアが広がり、新たな発見が得られることもあります。
まずは体裁に拘らず、常にビジネスモデルキャンバスを書くことを習慣にしてみることをお勧めします。

■より高精度なビジネスモデルキャンバスを完成させるために

①事前リサーチで「良い素材」を揃える
どんなに良い調理器具を揃えても、良い素材がなければ美味しい料理は作れないことと同様に、ビジネスモデルキャンバスにおいても、そこに組み込む情報が適切なものでなければ価値あるビジネスモデルを創出することはできません。
「パッと出のアイデア」や「競合他社の模倣」は悪い素材です。一方で、競合他社の現状、過去の事例、他の事業の参考情報など、出来る限りのリサーチを行ったうえで絞り出された「正確性の高い情報」、そして何より、「誰のどんな課題を解決するのか?」を定義するためのニーズ発掘により導き出された「正しい問題定義」が良い素材になります。

②他のフレームワークとの合わせ技
SWOT分析や3C分析など、広く認知されているビジネスモデルフレームワークや、Strategyzer社が公開しているValue Proposition Canvasなど、他のビジネスモデルフレームワークとの組み合わせることで更に精度の高いビジネスモデルを創出することができます。また、デザイン思考によるアウトプットを整理する手段としてビジネスモデルキャンバスを組み合わせることで、より独自性の高い、高精度のビジネスモデルを創出することができます。適切なフェーズ/状況に合わせて組み合わせてみましょう。

②ビジネスモデルキャンバスは「出発点」でありゴールではない。
ビジネスモデルキャンバスを書いてみることを習慣化するメリットについて解説してきましたが、当然ながらビジネスモデルキャンバスを書くことがゴールではなく、ビジネスで成果を出すことがゴールです。
得てして私たちは、自分たちの都合の良い結果に誘導しようとしてしまい、自分たちのアイデアが間違っている可能性を無視してしまう傾向にあります。(俗に「選択的認知」または「確証バイアス」と言われます。)まずは作成したビジネスモデルが、顧客の視点で本当に役に立つものであるのかを客観的かつ批判的な視点で見直し、チームで十分議論しましょう。
ビジネスモデルキャンバスはあくまで仮説であり、実際に価値あるビジネスモデルを創出するためには、検証⇔改善を繰り返して精度を高めていくプロセスが欠かせません。ビジネスモデルキャンバスの活用と合わせて、ぜひ仮説・検証・改善のプロセスを組織に浸透させてみてください。

※UXアカデミーでは、Strategyzer社のCCライセンスの管理下において、ビジネスモデルキャンバスの無料オンラインツールを公開しています。サービスデザイン/新規事業企画にお役立てください。ーリンクー

UXアカデミーでは、サービスデザイン/新規事業開発に取り組む経営者、新規事業担当者、起業家を対象に、新しい時代のマーケティングを理解・実践していただくことを目的に、UX(ユーザーエクスペリエンス)を最大化し、顧客に支持されるサービスデザイン、UX戦略設計に関する情報発信、セミナー、コンサルティングを行っています。お気軽にご相談・お問い合わせください。
 

ライター紹介

鈴木郁斗(Ikuto Suzuki)

・UXアカデミー Founder/ディレクター
・株式会社メルサ・インターナショナル・ジャパン代表取締役
・MELSA INTERNATIONAL LLC(米国法人)C.E.O.
・学生起業家育成「メルサゼミ」代表
・国立大学非常勤講師(イノベーション/起業家教育)

航空宇宙業界の技術者を経て留学先の米国にて起業、2010年より米国西海岸にて主にシリコンバレーエリアを拠点とした 航空宇宙業界のメカニカルエンジニアを経て2009年に米国で起業、以降日米で20以上の新規事業立上に参画。2012年当時シリコンバレーでのデジタルマーケティング人材/グロースハッカーの需要急増に伴う同分野の教育機関の活性化に着目し、2013年にUXアカデミー(旧:グロースハックアカデミー)を設立。スタートアップやイノベーションの最前線であるシリコンバレーのテクノロジーやUXデザイン、新規事業開発に関する情報を取り入れ、教育事業/日本企業の事業開発支援に従事する。